9989.jpg
治療薬「データ改ざん事件」 研究論文の不正に「法的歯止め」はあるか
2013年08月27日 11時24分

製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」をめぐる論文で、データの不正操作が見つかった問題は、臨床研究そのものの信頼を揺らがす事態にまで発展している。厚労省は8月、検討委員会を立ち上げ、調査に乗り出した。

データ操作が見つかった京都府立医大と慈恵医大のうち、慈恵医大が行った調査では、操作をした人物は、この薬を販売する大手製薬会社ノバルティスファーマの元社員(発覚後の5月退社)だと「強く疑われる」とした。だが、確たる証拠は示されていない。真相究明は今後、厚労省の調査に委ねられた格好だ。

さて、こうした「論文のデータねつ造・改ざん」は、しばしば問題になっている。データのねつ造・改ざんを食い止めるためには、どのような法的枠組みがあるのだろうか。冨宅恵弁護士に聞いた。

●詐欺罪などが歯止めになるが、最終的には研究者の規律・自浄作用しかない

「医薬品関連の研究データ操作は、日本だけの問題ではありません。新薬認可基準を満たすように研究結果が改ざんされていたり、助成金等の公的資金を獲得する目的で研究結果が改ざんされていたという事例が、国内だけでなく、海外においても少なからず存在しています」

――なぜそんなことに?

「今回の事例のように、医薬の分野で多くのデータねつ造・改ざん事件が発生する理由は、一つの医薬で数百億円から1000億円を超えるお金が動き、製薬会社から研究者個人や研究機関に対して経済的支援が行われることがあるためです」

――データのねつ造や改ざんを防ぐための法的枠組みは?

「研究結果を偽って助成金等を申請し受領した場合には、『補助金適正化法違反』となります。研究者個人や研究者が属している研究機関は、補助金を返還しなければなりませんし、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられることもあります。

また、研究結果を偽った論文を交付して金銭の交付や何らかの経済的利益を自ら得たり、第三者に得させた場合には詐欺罪が成立します。この場合には、10年以下の懲役に処せられることになります」

――それだけでは歯止めにならない?

「そもそもの前提として、研究の不正を発見するのは、簡単ではありません。研究論文は、発表前に第三者の専門家によって『査読』が行われ、研究結果の妥当性がチェックされています。

しかし、査読には『各研究者が倫理的行動をとること』という抽象的な基準しかありません。査読で不正を発見しようとしても、科学的検証には時間的、費用的な限界があるため、データが改ざんされた論文を発表前に排除することは、困難な状況にあります」

――研究から利害関係者を排除することも一手なのでは?

「そうですね。研究者の経歴や属性、製薬会社等との関係を確認して、研究結果に懐疑的な目を向けることの重要性が指摘されています。ただ、それだけでは限界もあります。

そもそも、我々一般人が高度な専門分野の最先端の研究をチェックすることは、不可能といってよいと思います」

――となると、専門家のモラルや相互監視に期待するしかない部分もある?

「そういうことです。文部科学省のガイドラインにおいても、不正行為への対処は、まずは研究者自らの規律、並びに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされるべきであるとするとされています。今回のようなデータ改ざんの予防は、最終的には、彼ら自身の自助努力に委ねざるを得ないと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」をめぐる論文で、データの不正操作が見つかった問題は、臨床研究そのものの信頼を揺らがす事態にまで発展している。厚労省は8月、検討委員会を立ち上げ、調査に乗り出した。

データ操作が見つかった京都府立医大と慈恵医大のうち、慈恵医大が行った調査では、操作をした人物は、この薬を販売する大手製薬会社ノバルティスファーマの元社員(発覚後の5月退社)だと「強く疑われる」とした。だが、確たる証拠は示されていない。真相究明は今後、厚労省の調査に委ねられた格好だ。

さて、こうした「論文のデータねつ造・改ざん」は、しばしば問題になっている。データのねつ造・改ざんを食い止めるためには、どのような法的枠組みがあるのだろうか。冨宅恵弁護士に聞いた。

●詐欺罪などが歯止めになるが、最終的には研究者の規律・自浄作用しかない

「医薬品関連の研究データ操作は、日本だけの問題ではありません。新薬認可基準を満たすように研究結果が改ざんされていたり、助成金等の公的資金を獲得する目的で研究結果が改ざんされていたという事例が、国内だけでなく、海外においても少なからず存在しています」

――なぜそんなことに?

「今回の事例のように、医薬の分野で多くのデータねつ造・改ざん事件が発生する理由は、一つの医薬で数百億円から1000億円を超えるお金が動き、製薬会社から研究者個人や研究機関に対して経済的支援が行われることがあるためです」

――データのねつ造や改ざんを防ぐための法的枠組みは?

「研究結果を偽って助成金等を申請し受領した場合には、『補助金適正化法違反』となります。研究者個人や研究者が属している研究機関は、補助金を返還しなければなりませんし、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられることもあります。

また、研究結果を偽った論文を交付して金銭の交付や何らかの経済的利益を自ら得たり、第三者に得させた場合には詐欺罪が成立します。この場合には、10年以下の懲役に処せられることになります」

――それだけでは歯止めにならない?

「そもそもの前提として、研究の不正を発見するのは、簡単ではありません。研究論文は、発表前に第三者の専門家によって『査読』が行われ、研究結果の妥当性がチェックされています。

しかし、査読には『各研究者が倫理的行動をとること』という抽象的な基準しかありません。査読で不正を発見しようとしても、科学的検証には時間的、費用的な限界があるため、データが改ざんされた論文を発表前に排除することは、困難な状況にあります」

――研究から利害関係者を排除することも一手なのでは?

「そうですね。研究者の経歴や属性、製薬会社等との関係を確認して、研究結果に懐疑的な目を向けることの重要性が指摘されています。ただ、それだけでは限界もあります。

そもそも、我々一般人が高度な専門分野の最先端の研究をチェックすることは、不可能といってよいと思います」

――となると、専門家のモラルや相互監視に期待するしかない部分もある?

「そういうことです。文部科学省のガイドラインにおいても、不正行為への対処は、まずは研究者自らの規律、並びに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされるべきであるとするとされています。今回のようなデータ改ざんの予防は、最終的には、彼ら自身の自助努力に委ねざるを得ないと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る